仙人講座/第10期 (平成12年度)
第1回講座「交遊仙人」 平成12年7月27日 遊学館
基調講演
「悪役こそわが人生」
~出逢い・ふれ合い・めぐり逢い~
俳優の八名信夫さんは、42年間、悪役を続けてきた中での体験談を披露。さまざまな人達との出逢いについてお話されました。
岡山出身でプロ野球をめざしていた八名さんは、昭和31年、明治大学から当時の東映フライヤーズに入団しましたが、3年後、試合中に腰の骨を骨折。球団の親会社が映画会社だったことから「野球はクビだ。映画の方に契約せよ」という社長の一言で、俳優人生がはじまったとか。
「役者になっても、遠くの方で走ったり、キャバレーの隅で酒を飲む役ばかり。岡山弁の訛があるから、八名にはしゃべらすなと。半年位たって、このままでは駄目になってしまうと思った頃、映画に悪役が出てくるのを見て、
”これだ。悪役なら早く死ぬから、次の仕事が早く来る“と悪役になった。それから勉強しました。葉巻の吸い方、帽子のかぶり方…ピストルで撃たれて倒れる時、土埃がたって迫力が出るよう、その場所に灰を余計にまいたり。いろんな悪役がいるけど、人と同じことをやってちゃいかんとね」。
苦労話もユーモアたっぷりに語る八名さんの話に、会場のあちこちから笑い声が。また、主役を引き立てるために悪戦苦闘した裏話も紹介されました。
「面白い主役といえば、若山富三郎さん。相手にまず得をさせろ、そうすれば後で自分は必ず得できるということを、映画の中で教えてくれた。尊敬しているのは、大学の先輩でもある高倉健さん。健さんは泣きごとを言わない。ものすごく強い人です。それから丹波哲郎さん。何事にも動じない、尊敬すべき面白い親父さんです」。
そして一番強烈な出逢いは、大学の野球部の島岡監督とも。「僕らは”島岡御大“と言うんですが、年に一回『御大を励ます会』を開いている。ある年、御大は僕の顔を見てこう言った。”何かしようとする人間を、何もせん奴が笑うんだよ。放っとけ“と。悪役ばかり12人集まって「悪役商会」を作った時、老人のケアハウスを慰問しようということになった。それを他の連中が、売名行為をするなと言った。俺はものすごく腹が立ったが、その時、御大の言葉を思い出した。これを言ってくれたんだなと。それから20年、あの言葉一つで、自信を持って何でもやることが出来るんです。
主役には主役の花がある。ならば悪役には悪役の花があっていい。僕は、その花をいつか自分の手で掴もうと向かっていく、そうやって生きていきたいと思ってます」。人との出逢いとふれ合いを心の糧に、真剣に悪役に取り組む八名さん。その言葉の一つ一つに、強く優しい素顔がのぞきました。
実践講座 「悪質商法について」
”生活の落し穴“といえる悪質商法。年々、手口が巧妙になっている悪質商法の被害にあわないためにはどうしたらいいか、県消費生活センターで長年、相談員を務めている近野弘子さんにお話していただきました。
「私が相談員になった昭和60年に、大変な悪質商法がありました。豊田商事事件です。当時は霊感商法、原野商法の被害も多発しました。今は、景気が低迷していますので、一番多いのはサラ金に関するもので、多重債務の相談がほとんどです。商工ローンで社会問題になった根連帯保証人の相談もあります。また低金利時代に必ず出てくる利殖商法、退職した方を狙った代理店内職、無料で雑貨などを配り大きな物を買わせるSF商法など…こうした”うまい話“には、必ず裏があります」。
ほかにも健康商法、語り商法、点検商法、送り付け商法、内職商法など、つぎつぎと悪質商法の具体例があげられました。
「では、契約してしまったらどうしたらいいか。そのためにクーリングオフがあります。訪問販売や割賦販売で、消費者が一定期間内ならば違約金を支払うことなく契約を解除できる制度です。最近、エステティックや学習塾といった継続的サービスにも適用されるようになりました。ただ、何でもクーリングオフ出来る訳ではありません。自動車や通信販売、3千円未満の商品、開封した消耗品はクーリングオフ出来ないんです」。
何か購入したいという時は、契約を急がず、消費生活センターに問い合せてほしいと近野さん。
「そして何か納得出来ない時には、私一人くらい言わなくても…と思わないで、私共に相談して下さい。悪質商法の場合、何人も同じ手口で騙されたとなれば、摘発につながります」。
近野さんのお話に、消費者として正しい情報を得ることがいかに大切かを、受講生の皆さんは再認識されていたようでした。
第2回講座 平成12年8月23日(水) 遊学館
基調講演 「心の文化」
基調講演は、異文化コミュニケーターで比較文化論が専門のマリ・クリスチーヌ氏。イタリア系アメリカ人のお父さんと日本人のお母さんの間に生まれ、4歳まで日本で暮らした後ドイツ、アメリカ、イラン、タイと海外で生活した体験をもとに『心の文化』と題してお話されました。「違う文化で育った両親の夫婦喧嘩を見ると、日米それぞれの文化がわかる」と、楽しいエピソードを例にあげながら文化の違いを紹介。さらに「自分がこれから何をしていこうかという、自分自身の文化づくりも大事」とも。マインドが若ければ本当に楽しい人生が送れる……という言葉に、受講生の皆さんは大きく頷いていました。
実践講座 「旅のロマン」
仙人体操の後の実践講座では、日本交通公社山形支店長の前田健二氏が『旅のロマン』をテーマに講演。 「旅行は感動。特に、異文化に接する海外旅行は感動を受けるチャンスも多い。豊富な経験があり、自分が見たいもの、 したいことが分かっている熟年こそ海外旅行の適齢期」との話に皆さん、旅心を誘われたよう。
また旅行の申し込みからパンフレットの見方、出発の準備、旅行中の心得など、快適な旅行のためのアドバイスがありました。
第3回講座 平成12年9月14日(木) 遊学館
実践講座 「ダンスの魅力と健康」
仙人講座修了生の「仙遊会」の方にもご参加いただいて開催。最初に、(財)日本ボールルームダンス連盟評議員・鎌田喜久男氏の実践講座が行われました。『ダンスの魅力と健康』と題した講演では、「コンピュータ時代の21世紀こそ、人とのふれあいが必要。ダンスは人と打ち解けるきっかけにもなる」とその魅力にふれ、「健康の第一は太り過ぎないことで、体を動かすことが大事。ダンスを始めるのに年齢は関係ない」と若さを保つ秘訣を伝授。奥様の多賀子さんとタンゴ、ワルツなどを踊り、華麗なステップを披露しました。
基調講演 「葵の美学」
つづいてNHK大河ドラマ「葵徳川三代」の脚本家ジェームス三木氏が基調講演。『葵の美学』をテーマに、「江戸時代は知識より知恵の方が上に見られていた」と、現代と比較しながら「歴史から学ぶものは、人の生き方や時代の美学」と語りました。また「今は素人の知恵が大事な時代」とユーモアたっぷりに数々の持論を展開し、「主役の条件はトラブルを解決する能力があることと、人生を持っていること。
誰もが自分の人生の主役で、一生かかって一つの人生を創作している」と人生論も。豊富な経験を交えた軽妙な話術に、会場は終始、明るい笑いに包まれました。
第4回講座 平成12年10月25日(水) 遊学館
基調講演 「チャレンジ」
第4回は元日本女子バレーボール日本代表で、現在はタレントとして活躍している益子直美氏が、『チャレンジ』と題して基調講演を行いました。「小学6年で身長が158センチもあって、クラスで孤立していた時、母から”何か一つ、得意なものを持ちなさい”と教えられた」と益子氏。
中学に入ってバレーボールをはじめ「中学時代はジャンプ力、高校の時はジャンプサーブとバックアタック、実業団に入ってからはサーブレシーブと、いつも自分の”得意なプレー”を持ったことが自信につながった」と語り、目標を持ってチャレンジすることの大切さを力説しました。
実践講座 「痴呆性老人と家族の会」
実践講座では、「呆け老人をかかえる家族の会」山形支部顧問の柳生法雄氏が『痴呆性老人と家族の会』のテーマで講演。昭和62年に山形県内に同会が発足した経緯や活動内容につづいて、「介護する人が変われば、痴呆性の方も変わる。叱れば叱るほど悪化する」「アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆は、介護の仕方が違う」など、「介護」に関する問題を分かりやすく解説。関心の高い話題とあって、介護現場からの生の声に、受講生の皆さんは熱心に耳を傾けていました。
第5回講座 平成12年11月15日(水) 遊学館
基調講演「固い頭、柔らかい頭」
基調講演は、ベストセラーとなった「頭の体操」の著者で千葉大学名誉教授の多湖輝氏。『固い頭、柔らかい頭』と題して、人生を楽しく送るための知恵についてお話されました。
「世の中や状況がどんどん変わっていても、それに頭がついていかない。そういう人を頭が固い人という」と切り出し、「日本人は知恵は結構あるが、ものの見方が近視眼的になりがち」と、その頭の固さを示す例を次々と紹介。話はインターネットから政治や教育問題にまでおよび、日米欧の発想の違いを挙げながら、変化の激しい現代に対応できる「柔らかい頭」の必要性を説きました。
「僕は、一日24時間じゃ時間が足りない。寝る暇がなくて困ってる」と意気盛んな多湖氏は、「皆さんも頭を柔らかくしてガンガン生きよう」と話を結び、最後に得意な手品を披露して盛大な拍手を浴びました。
実践講座 「食文化の知恵」
つづいて料理研究家・古田久子氏の実践講座。『食文化の知恵』をテーマに話を進めた古田氏は、「中国には医食同源という考えがあって火の料理、西洋料理は肉や魚よりソースを大事にする香りの料理、日本料理は旬を大切にする水の料理」とそれぞれの特徴を説明し、食文化の多様性を紹介しました。
また、山形の山菜にふれ「旬に食べ、尚かつ干したり漬けたりして冬の保存食にした。素材を生かす知恵は素晴らしい」と絶賛。さらに「人生は、どんなものを、どういう風に食べてきたかという健康の歴史。だから食べる事を大事にしてほしい」と語り、食生活や幼児期の「食育」の大切さを力説しました。
第6回講座 平成12年12月13日(水) 遊学館
基調講演 「ヒゲのオタマジャクシのダメもと精神」
照明を落とした会場の「舞台」に、オペラの一節を口ずさみながら登場した日本最高のバス歌手・岡村喬生氏。演題通り『ヒゲのオタマジャクシのダメもと精神』で歩んできた音楽人生をユーモアたっぷりに語りました。
「早稲田大学の政経学部新聞学科に入学してすぐ、隣に座っていた奴にグリークラブに誘われた。私はオタマジャクシのオの字も知らないのに、はじめて男性合唱を聞いて、すごい!!これは面白そうだと夢中になった」と歌との偶然の出会いを振り返り、「ダメでもともと」とイタリア留学の試験や国際コンクールなどに挑戦した逸話の数々を披露。「ダメもと精神でやってきたが、ダメなことの方が多かった。でも全然後悔していない。好きなことをやっているから……」と、失敗を恐れず信念を持って生きる岡村氏の体験談は、皆さんの心の琴線にふれたようでした。
実践講座 「話し方のすすめ」
実践講座では仙人講座の司会でおなじみのフリーアナウンサー・前川孝子氏が、『話し方のすすめ』をテーマに講演。「話はメリハリが大事」「話し言葉はなるべく簡潔に、一つのセンテンスを短く」など、上手な話し方のポイントをアドバイスしました。
しかし「立板に水のようにスラスラ話せるから話し上手#というのではない」とも。「話すことはコミュニケーションの原点で、相手に対する温かさを持っていることが大切。より良い言葉で人と人の間が豊かになって、ほっとするような使い方が出来たらいいなと思う」と前川氏。皆さんに腹式呼吸のやり方を伝授して、”心地よい言葉”に満ちた講演を終えました。
第7回講座 平成13年1月24日(水) 山形グランドホテル
基調講演 「人生在勤」
本年度「仙人講座」の最後を飾ったのは、名司会者として知られるタレントの玉置宏氏。開口一番、「一週間のご無沙汰でした」と懐かしい名台詞で会場を沸かせ、『人生在勤』と題して基調講演を行いました。
「タイトルの『人生在勤』は、”人生勤むるに在り”という意味」と語りはじめ、「予習や下準備は当たり前、仕事が終わった後の復習が一番、身に付く」と、軽妙な話術の裏にある人知れない努力を紹介。さらに「マイクを持って45年。三橋美智也という人との出会いが、私の運という扉を開いてくれた」と話し、「運は手を広げて待っていてくれるかもしれないが、引き寄せることは出来ない。一生懸命、自分なりに勤めながら近づいていくうちに、向こうから手を差しのべてくれるものだと思う」と自らの人生感を語りました。
また、現在、司会を務める橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦の「御三家・全国百ケ所ツアー」の模様や3人との交流を軸に、昭和後半の歌謡史や芸能界の裏話を披露。”語りの名手”らしいテンポの良い話に、受講生の皆さんは引き込まれるように聞き入っていました。
この講演で全講座を終え、つづいて本年度「仙人講座」の修了式を開催。最初に國井一彦学長が挨拶、修了生116名全員の名前が紹介され、佐藤忠樹副学長より修了生代表の白幡達雄さんに修了証書が授与されました。
閉式後、修了生の皆さんは記念撮影を行い、席を移して交流会へ。代表幹事の佐藤信房さんの挨拶につづいて、馬場幹義常務理事の発声で乾杯。全講座に出席した方には皆勤賞が贈られました。交流会では話も弾んで、楽しいひとときに。ともに「仙人」をめざした仲間同士の話は尽きませんでしたが、なごやかな交遊の輪を全員の合唱で締めくくりました。