仙人講座/第21期 (平成23年度)
■第1回講座 平成23年8月24日(水) 遊学館
「歴史に学び 未来を読む」
歴史家・作家 加来 耕三氏
「歴史に学び 未来を読む」と題し講演を行った加来耕三氏は、歴史家、作家として著作活動をなさっておられる他、テレビやラジオなどでもご活躍中です。
お聞きいただきたいこと、ご実践を賜りたいことは演題が変わりましても、たった一つしかございません。どうすれば歴史を具体的にお仕事や日常生活に活用していただけるか、この一点でございます。
仙人として、歴史を使って未来を読んでいただくためにもお願いしたいのは、まず、歴史を疑っていただきたいということ。感動した作品に巡り合ったならば、感動したことが歴史的に正しいのか、それとも著者の作り話なのかをご自身の中で分けていただきたいのでございます。2つ目といたしまして、奇跡や偶然というものの考え方をどうかお心の内から排除していただきたいということでございます。必然の中で考えるのが歴史学でございます。さらに3つ目といたしまして、数字を重視したものの考え方をどうか展開していただきたいということでございます。数字がウソを言った歴史学の世界はございません。しかし、人間が数字にウソを言わせた歴史、人間が数字に期待値を載せ、その期待値がどんどん伸びていって客観的な判断ができなくなっている歴史については改めて考えるべきです。
以上の3つのことが叶いますならば歴史学を日常生活の上で活用することは決して難しいことではございません。必ずや過去に学び未来を読むということができるはずでございます。
最後に「私の申し上げたいことは大体以上でございます。明日からは著者と読者という健全なお付き合いをお願いしたいと思います」とユーモアたっぷりに会場に呼びかけ、講演を締めくくられました。
第2回講座 平成23年9月15日(木) 遊学館
「日本人を幸せにする経済学」
獨協大学教授・経済アナリスト 森永 卓郎氏
「日本人を幸せにする経済学」と題し講演を行った森永卓郎氏は、獨協大学教授、経済アナリストとして、テレビやラジオなど多方面でご活躍中です。
野田政権が発足してどんどん円高が進んでいます。そればかりか復興増税・消費増税をしていきましょうと言っています。私は「増税はやめろ」と言い続けてきました。復興需要というカンフル剤が切れて景気が危なくなった所に増税を重ねると失速するに決まっているわけです。
阪神大震災の2年後に消費税率を3%から5%に引き上げて、結局今に至る14年間、日本はデフレを続けています。デフレを止めてやれば14兆円税収が増えるのです。日本人は優しい人ばかりなので被災地が苦しんでいるなら、自分達も幾ばくかの負担をしなきゃいけないと思ってしまうのです。福島に首都機能を移転させるため、日銀が復興債を全部引き受けてお金を50兆円出せば誰もが負担せずに景気は良くなり、被災地の復興もできるのです。グローバル経済、TPPをやるぞ、という考え方の先に未来は無いと思っています。
どうすれば本当にみんなが豊かに暮らせるか、幸せになれるのか、その答えはヨーロッパのイタリアにあります。イタリアと日本、共通点だらけですが、1つだけ決定的な差がある。イタリア人は絶対に暗くならないけれど、日本人はすぐに暗くなってしまうということです。暗くなったらろくなことはない。周りまで暗くなったら共倒れになってしまいます。構造改革の第一歩、恥ずかしいなんて思っていちゃダメです。ラテンになるということから全て始まると思っています。
最後に「生涯ワクワク・ドキドキして生きる社会、カンターレ(歌おう)、マンジョーレ(食べよう)、アモーレ(恋をしよう)という結論が、仙人講座の結論にふさわしいかどうかはわかりませんが、大抵こういう結末になります」と終始明るく、パワフルな講演を締めくくられました。
■第3回講座 平成23年10月7日(金) 遊学館
「東北の再生」
宗教学者 山折 哲雄氏
「東北の再生」と題し講演を行った山折哲雄氏は、宗教学者として、著書を多数執筆なさっておられる他、テレビなどでもご活躍中です。
私は故郷が岩手県花巻で、3・11のあの大震災大津波から1ヶ月経ちまして現地を訪れました。仏のいない、地蔵菩薩のいない地獄、賽の河原、それが率直な印象でした。訪れた3日間は皮肉にも快晴で、海は静かに美しく、遠くの島々の姿は青く輝いておりました。結局、自然の力でこれほどの打撃を受けたこの地に住む被災者の方々は、最終的には正にその美しい自然によってしか、心の底から癒されないし、救われるものではない。自然の持っている、このどうしようもない2つの側面と何千年も何万年もずっと付き合ってきたことが、日本人の可能性・希望を見いだしていると思います。それにしても被災地における被災者の方々の表情は本当に穏やかでした。忍耐強い助け合いの姿もどこにでも見られる。これは日本列島に住む人々固有の世界観、自然観、あるいは信仰心というものと深い関わりがあるのではないかと思うようになりました。
我が国における物理学者・寺田寅彦も思想家・和辻哲郎も、日本人の性格は自然現象と関わりがあると言っております。「地震」や「台風」といった自然現象と何千年、何万年と付き合う中で、無常観に血肉化し、「しめやかな激情」と「戦闘的な恬淡」という2つの性格が日本人の中に育まれた。災害危機が迫ってきてもそれを乗り越えていく、日本人の国民性の1つの特徴であると思っています。
21世紀は災害の世紀、道徳的退廃の世紀、容易ならざる事態。学問のあり方も、物理学・天文学といった「予測することのできる学問」と宗教学・経済学・地震学といった「予測することのできない学問」の大きく2つに分けるべきだと感じ始めました。垣根を越えて、広い視野で複眼的なものの見方の基に世界と人類の運命を考えていかなければならない所にきていると思います。
私は、複眼的思考の強さ、野性的な荒々しい視線で人間・世界を見ている斎藤茂吉が大好きです。こういうエネルギーが、こういうパースペクティブが私はこれからの東北の再生、日本の再生には必要ではないかと思っています。
最後に「この地は山形ですから、とりわけ茂吉にオマージュを捧げて私の話を終わらせていただきます」と講演を締めくくられました。
■第4回講座 平成23年10月27日(木) 遊学館
第1部
「ちょっとした工夫で、ちょっとだけ元気に!」
健康社会学者・博士(Ph.D.,保健学)・気象予報士 河合 薫さん
「ちょっとした工夫で、ちょっとだけ元気に!」と題し講演を行った河合薫氏は、健康社会学者として研究を進めるかたわら、講演や執筆、テレビなどでご活躍中です。
健康社会学とは、「少しだけ前向きに頑張ってみようかな」「一歩踏み出してみようかな」といった環境をつくっていくこと、そして自分自身も周りの人の背中を押すような人間になるにはどうしたら良いかと考えることです。
こんなストレス社会ではありますが、ストレスの力にたくさん引っ張られても、それを引き返すだけの元気になる力を持っていれば、生き生きと前向きに、生きる力を保ちながら、元気に過ごすことができるわけです。ストレスとは人生における雨であり、その雨をさえぎる傘の役目をするのが元気になる力です。傘を借りる勇気を持ってください。傘を借りるということは人生の伴奏者を得るということです。この人がいれば前向きになれる、頑張れる、そういった人がいれば自信がない人でも、どんな雨が降ってきても怖いことはありません。
しかし3・11を境に私は傘を貸す勇気を持ってくださいと言うようになりました。土砂降りの中に入った時というのは、傘を借りるどころか差すことすら思いつかない。もう何もできないのです。ですから、もしも皆さんの周りに土砂降りの中で雨に濡れているような人がいたら、是非とも傘を差し出す勇気を持ってください。そして、傘の貸し借りができる環境を作っていくために「挨拶」「無駄」を大切にしてください。挨拶というのは心と心の距離間が縮まる最も簡単で誰もができることですし、無駄な時間・空間、無駄話は人間の人となりを知る、とっても大切なことです。
最後に「ここにある空気がちょっとだけ温まった気がします。無駄話でしたから皆さんの心のノートに刻まれたことでしょう」と、河合さんならではの素敵な言葉で講演を締めくくられました。
第2部
「時代を越え、新しく蘇る活弁の魅力」
活動弁士 佐々木 亜希子さん
「時代を越え、新しく蘇る活弁の魅力」と題し講演を行った佐々木亜希子氏は、活動弁士として全国各地の映画祭に出演なさっておられる他、学校や施設での公演、活弁教室の講師も務められるなどご活躍中です。
小さい頃から文学好きではあったのですが、アナウンサーとしてニュースで事実を1つ伝える以上に1つの虚構の世界の中で感動を得て、人生の糧になるようなことを伝えていけた方が良いな、と考えていた頃に活弁に出会いました。
無声映画を見て最初に感じたことは「古くない」ということです。不変的なものが詰まっていて、人間の情・悩み・苦しみといったテーマはずっと変わっていない。それから時代を映す大事な財産である。しかもエンターテイメントとして成り立っていて広い世代の方に楽しんでいただけるものとして蘇らせることができると思ったら、これって凄く面白い、可能性がある仕事なんじゃないかなと思いました。音楽を新しくしたり、語りを工夫したりすれば、子ども達や若い方も興味を持ってくれるのではないかと考え、いろいろな実験をした結果、若い方が面白がって集まってくださるようになりました。
今6年目になりますが、活弁の技術を活かして、子ども達の教育の場で活弁のワークショップをしたり、福祉の場では視覚障害の方にも耳で聞いて楽しんでもらえるバリアフリー映画にも挑戦しております。
最後に「いろいろな可能性がある活弁が、実は今の世に蘇っているのではないかと思って開拓していきたいなと頑張っているところです」と講演を締めくくられました。
講演に先だって、1902年ジョルジュ・メリエス監督・主演の「月世界旅行」と1929年小津安二郎監督の「大学は出たけれど」の2本の活弁映画を上映しました。老若男女の声色を使い分け、アドリブや庄内弁を盛り込んだ生の活弁の迫力に会場中が引き込まれました。
■第5回講座 平成23年11月8日(火) 遊学館
第1部
「一流とは何か」
ノンフィクション作家 小松 成美さん
「一流とは何か」と題し講演を行った小松成美氏は、ノンフィクション作家としてスポーツノンフィクションを始め、古典芸能など幅広い分野について多数の著書を執筆なされ、ご活躍中です。一流といわれる人の心に触れて、こうした人だからこんなに人を魅了するのだな、支持をされるのだな、人気を集めるのだなと思う瞬間は、決してその人の強い姿、光り輝いている姿を見る時だけではないんです。孤独にさいなまれて涙を流している姿や、時には弱い自分を曝け出して本心を語る姿から、だからこそこの方は一流なんだと思える瞬間が本当にたくさんあります。
なでしこジャパンがワールドカップで優勝できたのは、世界大会での勝利を持って日本女子サッカーの環境の厳しさを訴えたい、若い選手に未来があると示したいという気持ちと、3・11で大きな傷を負った人達のために、この国のために何ができるのかと考え、諦めない心を持ち続けたからでした。一流ということの一つの証に諦めない心があると私は知りました。
日本人は協調性を重んじますが、野球のイチロー、サッカーの中田も個人主義で集団行動ができないと言われました。野球の仰木監督は、異端を恐れることは集団にとって最も危険なことで、異端や特異な才能というのは必ず集団を輝かす、刺激、影響を与えるものです。行動が異端に見えても、チーム、勝利のためにやっているのであれば個人主義と言われるようなものではないんですと言われました。一流というものは、異端を恐れず、認め、まとめ上げていく、そうした力を持っている。私も、ささやかでもそういう思いを持ちたいと思いました。
最後に「私の話を聞いて、日々の生活の中で何か小さなヒントにしていただき、また若い方を導く力にしていただけたら本当に嬉しいと思います」と会場に呼びかけ、講演を締めくくられました。
第2部
仙人講座ミニコンサート 山形交響楽団弦楽四重奏
山形交響楽団弦楽四重奏の生演奏をお聴きしました。クラシックの名曲から、「ノルウェイの森」や日本の唱歌「ふるさと」まで幅広いジャンルの曲を演奏していただきました。楽器紹介も大好評。弦楽器のやわらかな音色と豊かなハーモニーに心が和む優雅なひとときとなりました。
■第6回講座 平成23年11月25日(金) 遊学館
第1部
「継ぐということ」
真打落語家 林家 三平氏
「継ぐということ」と題し講演を行った林家三平氏は、落語家としてのご活躍の他、タレント、俳優としてテレビなどでもご活躍中です。
私は噺家になりまして、父、初代三平の跡を継いだわけですが、父は継がなくていいと思っていたみたいです。海老名家には18歳になったら外国旅行を一人でさせるという決まりがあります。私はヨーロッパをあたりましたが、世界各国の方とお国自慢をしたときに、何も説明できなくて恥ずかしい思いをしました。自分の国の文化を知ってからこそ世界にはばたくことができるんだと教わり帰って来ました。その時目の前にあったのが落語で、これは素晴らしい日本の文化だということでこの世界に入りました。そして落語の修行に入るのですが、見習、前座の時は何も教えてもらえない。お茶の出し方は250人の真打ちの癖を全部覚えるんです。着物の畳み方だけで5種類全部覚えなきゃいけない。そんな時代を過ごしまして噺家というのは良いもんだなというのを実感しています。師匠方の身振り手振り、やっている小噺、やっていること、耳学問でいろんなことを教わりました。
噺家の世界というのは不思議なもんです。皆さんに向かって一人しゃべりです。それを皆さんに頭の中でその状況、風景を思い浮かべてもらって、笑っていただく。聴く皆さんが想像力を豊かにしなくちゃいけない、これが落語の一番良いところです。落語を聴いている方はボケる方が少ない。
今日は参加型の講演会ということで実践指導をします。<そばの食べ方の一連の動作を指導>
最初はそば屋でやり、動きを覚えてまたやってみる。空想の世界、これが落語の世界でございます。
最後に「さあ、これからいよいよ落語会の始まりです」と会場に呼びかけられ、終始笑顔と笑い声があふれた講演を締めくくられました。
第2部
仙人講座ミニ寄席
林家三平氏(落語) 翁家勝丸氏(太神楽)
林家三平氏の落語と翁家勝丸氏の太神楽を生で楽しみました。勝丸氏のどんつくや傘回しといった巧みな芸に会場は沸き、三平氏の落語『浜野矩随』には大いに笑い、泣き、心も体も元気になる素晴らしいひとときとなりました。
■第7回講座 平成23年12月14日(水) 遊学館
「99.9%は仮説~思い込みで判断しないための発想法」
サイエンス作家 竹内 薫氏
「99.9%は仮説~思い込みで判断しないための発想法」と題し講演を行った竹内薫氏は、サイエンス作家として多数の著書を執筆なされ、ご活躍中です。
今日のお話、知恵を活かすために発想を柔らかくするということで、いくつか問題を持ってきました。面白く、かつ難しいものになると思いますが、終わった後に必ず頭がほぐれてくると思います。
数学は頭の体操になります。例えば3つのカップの中に1つのダイヤモンドが入っていて、それを当てる問題。どれか1つを選ぶのは1/3の確率です。ここで選んだカップ以外の2個のうち、ダイヤが入っていない方のカップを開けてみせて、最初に選んだカップと、開けなかったカップのどちらかを選択する判断を追加します。結果は最初に選んだカップから、開けなかった方のカップに変えた方が2倍の確率で当たることになります。変えなかった方は1/3の確率のままですが、変えた方は2/3の確率で当たることになるんです。この場合、2択だから確率は1/2というのは思い込みなんです。確率の計算というのは情報量によるんです。
発想の転換のために自分以外の視点になって、もしも鳥だったらどういう世界の見え方か考えてみましょう。人間は3原色ですが、鳥は4原色です。鳥が昼間見ている色の世界は人間よりずっと幅が広く非常に色彩豊かな世界です。鳥だけではなく、人間同士でもそうです。性別の違いや目の良し悪しによっても見ている世界は違います。それは全て目が見ているのではなく、脳が見ているから。脳がこの世界の情報を取り入れて見ているのです。発想が固まりかけた時、世界の見え方が人によって違うんだと気づくだけでも大分違うと思います。
最後に「今日の講義で、何か1つか2つくらい、ちょっと仙人に近づいたなと思った部分がありましたら幸いです」と講演を締めくくられました。