仙人講座/第23期 (平成25年度)

■第1回講座  平成25年6月12日 遊学館

「地球版『奥の細道』づくりの中で出会った珠玉のことばと人々」
歌人・作家 田中 章義氏

 田中章義氏は、歌人として世界を旅しながら、ルポルタージュ、紀行文、絵本等を執筆されているかたわら、環境保全やストリートチルドレン支援といった国際支援に関心を示し、活動していらっしゃいます。

 1400年間の短歌の歴史の中で、万葉集の時代からの歌人が一人もやっていないことをやってみたいと思いました。松尾芭蕉が300年前に日本中を巡った「奥の細道」を詠み、世界中200の国全部に降り立ち、北極・南極まで全部回った「地球版・奥の細道」というものを思い立ち、現在200の内の半分近く回っているところです。

 実際に「地球版・奥の細道」の旅をし、二つのことにびっくりしました。一つが、大変なペースで自然が無くなってしまっていること。たった1秒間でサッカー場1面分の緑が無くなり続けているそうです。もう一つが世界中で両親の顔を知らない子ども達がたくさんいるということ。この地球という星には15歳以下の子どもが約23億人いるそうですが、その中で両親を知らない子どもが1億人以上いて、子ども達だけで暮らしている状況があるのだそうです。世界を回ると大変な実情にいっぱい出会うのだと改めて実感いたしました。

 その「地球版・奥の細道」づくりの中では、印象深い「ことば」にもたくさん出会いました。いずれも1000年以上前から語られているいろんな言葉ですが、一緒に感じていただけたらと思います。スペインにありました「多く持っていない人が貧しいのではなくて、多くを欲しがる人が貧しい」。中国のハニ民族の言葉に「善人の心はいつも目元にあり、悪人の心はいつも口元にある」。モンゴルに「知り合いがいるのは、そこに草原があるのと同じだ」などです。言葉というのは人間よりも遥かに長生きだということです。1000年生きている言葉にもっともっと国や文化を超えて学ぶ必要があるんじゃないかと思っています。

 最後に、伊達政宗公の辞世の歌「くもりなき心に月を先だてて 浮世のやみを照らしてぞゆく」をご紹介いただき、様々な辛いこといろんな状況があっても、自分の心の満月で世の中の闇をいつでも照らし続けたいという先人の想いを伝え、講演を締めくくられました。

■第2回講座  平成25年7月24日(水) 遊学館

 第1部
「生涯スポーツのゴルフ」
プロゴルファー 小山 武明氏

 小山武明氏は、現役プロゴルファーとして活動される一方、TBSテレビ「サンデーモーニング」の屋根裏解説や様々なラジオ番組に出演されるなど、解説者としてもご活躍中です。

 スポーツの語源はデスポルトと言います。このデスポルトがデスポートとなり、スポーツになったといわれています。ポートいわゆる港湾ですね、港湾労働者が離れる、仕事場から離れるということでデスポート。その意味は、趣味・楽しむ。ですから、生涯スポーツも趣味で良いのです。たまたま日本にはその言葉がちょっと曲がって入ってきて、「スポーツ=体を動かすこと、誰かと競うこと」になった。

 スポーツにはいろいろあります。夫婦喧嘩もいいんですよ、楽しみですから。私は、小学校の時は野球をやりました。周りがやるからやりましたが、これが大事です。生涯スポーツで一番大事なものは、友達が増えてくることです。大学に入ってゴルフを始めましたが、全部自分でやれと親に言われたのでゴルフ関係のアルバイトをやりました。ずっとやっていたら、友達が増えていきました。

 大学2年の時、ハワイアンゴルフのマンデークオリファイに出場したくて、日本の事務局に問合せてみたが参加する資格がないと断られた。日本の事務局を通しているといつまでも参加できないので、アメリカに直接電話してみることにしました。普通はそこまで考えませんが、私はやるわけですよ。自分の生涯スポーツ、趣味のためですから、自力で調べてハワイの事務局に片言の英語で直接電話してみました。FAXで申込用紙が送られてきて、プロの資格をまだ取っていなかったのでステータス欄のプロ(職業人)かアマ(余暇でやっている人)か迷いましたが、アマチュアの試合には出られないグレーゾーンだったので、プロに丸をつけて申し込んだ。しかし、日本の事務局を通さずに勝手に出場したものだから、日本協会から呼び出されました。その時です、日本では駄目、アメリカでやろうと思ったのは。自分で試合を探してやっていく、これがプロゴルファーなんだなとプロの道へ入っていきました。

 最後に、距離が選べて、自分の技量・年齢に合わせて、自分の好きな所から打てるからとゴルフを勧めながらも、「必ずしも体を動かさなくても、楽しんで仲間が増えるものを生涯スポーツとして見つけてください。」と呼びかけ、温かな笑いに満ちた講演を締めくくられました。

第2部 
仙人講座ミニコンサート」
山形交響楽団弦楽四重奏

 山形交響楽団弦楽四重奏の生演奏をお聴きしました。クラシックの名曲から、オペラ音楽や山形の民謡「花笠音頭」まで幅広いジャンルの曲を演奏していただきました。楽器紹介により楽器についての知識を深められ、弦楽器の豊かなハーモニーが心に響く素晴らしいひとときとなりました。

■第3回講座  平成25年8月7日(水) 遊学館

「ちょっと農業してきます~田んぼから広がる、人との繋がり~」
タレント  大桃 美代子さん

 大桃美代子氏は、雑穀エキスパート、野菜ソムリエなど食育や農業に関する資格を数々取得され、農業を通して故郷の復興支援に取り組んでいらっしゃいます。

 2004年10月23日新潟で起きた中越地震の時は、たまたま実家の魚沼に帰っていたところで被災しました。その時に見た姿・光景は忘れられない。故郷というものは、いつ帰っても変わらない、ほっとする所だった。こんなに壊れてしまった故郷の復興のために何かできないかと思ったことが農業のきっかけでした。これだけの大災害も報道されなくなると人の意識から薄れてしまいます。薄れさせないためにどうしたらいいのかと考えた時に、この土地からできることは何だろうか。そうだ、農業をやろうと思ったのです。

 「桃米」という名前で、白いお米に混ぜて炊く無農薬の古代米を販売しています。この古代米は生命力が強く、色は桃色、おめでたいイメージでお勧めできる。白い米への応援になるし、復興の人達への思いも忘れないでくださいということにもなる。農作業というものは自分が手を掛けただけ収量が多くなり、農作物は自分の口に入って自分の命を育んでくれる。ものすごく分りやすい循環が自分の体を通してやってくる実感がある。リアルな「生きる」とはこういうことなんだと思った。地震という大きな体験は悲しいものでしたが、農業を始めて、地域の方達、地域を見直すことになりました。地域の人達と農業のことで話すようになり、農業でコミュニケーションをとれるようになりました。70歳以上の人にとって生きがいというのは「キョウイク」と「キョウヨウ」。今日行く所がある、今日用事がある、ということなのだそうです。農業は毎日やることがあります。農「業」としては成り立たないかもしれないけれど、農的生活をすることによってその土地の食を豊かにする、一つの自分の役割ができるんじゃないかなと思います。幸せは遠くにあるのではなく自分の近くにあったのだと感じさせてもらったのが農業でした。  

 最後に、「自分がワクワクすることをちょっとずつでも増やしていければ人生が豊かになるんじゃないかな。」と、人生を楽しむコツをご自宅のキッチンのDIY映像で紹介され、晴れやかに講演を締めくくられました。

■第4回講座  平成25年9月4日(水) 遊学館

「激動する世界情勢と日本の選択」
国際政治学者 浅井 信雄氏

 浅井信雄氏は、海外在住10年余、90ヶ国以上訪問し、現在も取材や調査を続けられており、テレビ・ラジオ出演、執筆や講演活動にてご活躍中です。

 山形で思い出すのは藤沢周平、自民党の加藤絋一、酒田の佐高信、そして斉藤茂吉さんであります。アメリカとの戦争に負けて、昭和天皇とマッカーサーが会見した写真がありまして、その写真に愛国者の斉藤茂吉がどのように反応したか。日記に「うぬ、マッカーサーの奴目!」という感想が残っていて、詳しく解るかなと思い、今朝上山の斉藤茂吉記念館に行ってみましたが、そこには全く触れられておりませんでした。アメリカバージニア州のマッカーサー記念館には統治時代に関連する資料が山のようにあり、全部は公表されていないが情報公開され、情報・資料を残して後の研究者のために役立てている。情報自由法案というのがあり、国が集めた情報は国民のもの、税金で集めた情報は納税者の国民のものという認識が根底にある。日本での安倍政権の秘密保護法案、どうなるか分りませんが、日本にはそれがない。今、情報の時代でありますから、情報をどう扱うかというのはとても微妙で重要な問題です。

 お隣の中国。今年4月、中国南方アモイにいる日本人の社長から「反日デモもあるけれども私達の地域ではそんなものはないし、むしろ中国の当局者は困ったことがないかと毎日のように問い合わせてくる。」と直接聞きました。今、日本の報道機関の大半は中国の悪い所ばかり報道しているという印象を私は持っています。悪い所も沢山ありますが、良い所も沢山あります。共産主義の中国から「日本全体がそっちの方向に流れていると、まるで社会主義国家みたいですね。」と言われるとは思いませんでしたが、私には反論できません。

 テレビ、週刊誌、新聞以外に独自に外国を調べる方法がいくらでもあります。パソコンを毎日使っていろんな情報を集めています。同時に頻繁に外国に行っていろんな人々に会って話を聞いたり向こうの出版物を覗いたりしていますが、完璧だと思いませんけれども比較することはできる。そこに大きな意味があると思っています。

 最後に、人気ドラマの「やられたらやり返す、倍返しだ」というセリフを取り上げ、「皆さんは倍返ししますか。人がやるのを見るのはいいが、自分がやるのは果たしてどうなのでしょうか。ぜひ、考えてみてください。」と会場に問いかけ、講演を締めくくられました。

■第5回講座  平成25年10月3日(木) 遊学館

 第1部 
「『日本経済の動向』~アベノミクスによる地域経済の行方~」
経済評論家 池田 健三郎氏

 池田健三郎氏は、日本銀行の調査統計局、国際局、金融市場局での経験を活かし、経済評論家・政策アナリストとしてテレビなどでご活躍中です。

 今日の話は経済の話でアベノミクス。安倍政権の最大の課題はデフレを退治することです。デフレとはあらゆるモノ・サービスの値段が下がること。5年前にリーマンショックが起き、その波を受けて日本中の経済活動が停滞し、デフレとなった。インフレにもっていくための政策が、いわゆる3本の矢。

 1本目の金融政策は、日本銀行がインフレ物価上昇率が前年よりも2%上がる所までお金を出しまくる金融緩和で今もやっています。2本目の財政政策は、政府の予算でやることで、ほとんど公共事業です。支出した時点で終わりで、手を打てば打つほど借金になり、借金総額700兆円になっています。3本目の成長戦略、すなわちGDP(国内総生産)を増やすことについては、GDPの6割は個人消費が主流で、次が企業の設備投資。あとは住宅投資と政府の支出・投資とその他。これらを増やしたいが、個人の所得・雇用が増えないと消費・住宅投資は増えない。設備投資も同じ。企業が儲かって設備投資も増え給料も増やして消費につなげてもらう狙いですが、そこまで行くかどうかが正念場で、今まさにそこに立たされています。

 それから、8%の消費税の問題。何のために上げるのかというと、結局社会保障のためです。自分で助ける自助、皆で助け合う共助、国・県・市が助けてくれる公助の3つのトライアングルがある。しかし、公助といっても税金のプール分を国が管理し分配しているだけで、もともとは共助。そして、例えば年金ですが、日本は積立て方式じゃなく付加方式といって若い世代が年金を払ったものをその時の年寄りに給付する。プールしているお金が少なくなってきているから、お互い同士助け合うために5じゃ足りないから8ずつ出しましょうと言っているわけです。お金が足りなくて子どもが減ってきて、年寄りが増えれば共助の費用は増えるんだから、誰が考えても解ります。

 最後に、「このままやっていくと、我々が今している借金全部を子ども・孫・曾孫までが被った時に、共助できないような世界が想定されてしまう。そのために今、我々が考えなきゃいけないことがあるのではないか。」と呼びかけ、講演を締めくくられました。

第2部 
「キラッと輝く人生をおくるための出番づくり」
特定非営利活動法人きらりよしじまネットワーク事務局長 高橋 由和氏 

 髙橋由和氏は、地域の中に「話し合い」の文化を取り入れた住民総参加の地域づくりを目指し、川西町吉島地区においてご活躍中です。

 川西町は、平成13~18年度までは財政破綻も辞さない厳しい状態でした。平成14年から吉島地区の公民館活動に参加させてもらって、自治会長連絡会・防犯協会・地区社協・衛生連合会の4つの団体の診断・見直しをさせていただいた。課題として出てきたのは、それぞれの団体の役員の重複と高齢化が目立つということ。各種団体が余剰金を持っているということ。地域の住民はそれぞれの団体の横のつながりをほとんどもっていなかったということ。その四つを一つにまとめるため、平成19年にNPOの法人格を取得し、それに合わせて組織図も変えました。地域の30年先を見据えた企画・運営ができる若者23名を登用し、活動の中から人材育成のフローも考え事務局へ吸い上げていき、資質向上のための研修をしていく。人材育成とは若者育成ではなく、地域活動に携わる方々が人財、財産です。地域づくりは目的を明確にし、ヴィジョン・将来像・意義・ミッション・価値観を見出しながら、住民が共有して参加していくシステムを創らなくてはいけない。住民総参加で一人一役の出番づくりをし、自分達の責任で判断して自己負担も辞さない地域の自立を考えていこうということです。

 伝説の経営者アメリカのゼネラル電気CEOジャック・ウェルチの言葉「何ができるかではなく、どうありたいか」は全く同感です。何かあった時に自分はどうありたいか、その課題を解決するために何がやりたいか、何をすべきか、その舞台は自ら創るということ。それが地域の中での出番です。 決める話し合いは年に4回だけで、決めない話し合いは何十回とやり、取りまとめは若い者にやってもらう。先輩の話と今の思いをマッチさせていく。仲間を増やして新しいつながりを創っていく。危機感・夢を共有して住民が問題点を話し合い、自らのこととして考える意識改革が必要です。「わかる」は理解して知識になり、「できる」は実行する能力となっていくわけです。

 最後に「人生の当事者は自分で、地域づくりには年齢も男女も関係ありません。自分が感じるものを大事にし、思う課題に対して真摯に向きあい、勇気を持って実践していただきたいと思います。」と地域での出番づくりの核心に触れ、講演を締めくくられました。

■第6回講座  平成25年11月6日(水) 遊学館

「地球環境を救う新しいライフスタイルへ」
淑徳大学教授 北野 大氏

 北野大氏は、タレントのビートたけし氏の実兄で、学者として淑徳大学で教鞭をとるかたわら、執筆や講演、テレビなどでもご活躍中です。

 20世紀は二度の戦争と人口の爆発的増加がありました。その結果として、気が付いたこと・認識したことが二つあります。一つは資源の枯渇を認識した。二つは人類初めての気候変動、具体的には温暖化で、これは人間が地球の気候を変えたという大変なことだった。最大の原因はCO2だった。日本では9割方のCO2はエネルギー使用から出てくる。私達はより大きなエネルギーを得るために従来の太陽から化石燃料にシフトした時、地域的には大気汚染、地球全体では温暖化という問題を起こしてしまった。

 CO2を出さないエネルギー源は何かを考え、日本が今までやってきたのは原子力です。今後、原発をどうするかと考えると問題は二つ。一つは多重防御・制御で防いでいけるか。機械は故障する、人は規則を守らないミスをするという二つの前提に立つフェールセーフの原発を開発しなくちゃいけない。二つは高レベル廃棄物です。技術的に最低でも2万年、できたら10万年埋めておくわけですが、今から10万年後まで保証できるか。この二つが解決しなければ新たな原発を造るのは難しいと思います。

 今の原発を安全に使いながら35~40年経って止めていく。その分はどうするかというと太陽ですね。太陽光・風力発電・バイオマス、すべてお天道様に回帰する。ただこれらをやれば原発は要らないということはできない。非常に辛いところです。今の時代はエネルギーをどんどん使って豊かな食料、高度な医療、快適な家庭の環境(洗濯や冷暖房)などを得ていて、それらを手放すのは難しいですから。

 ライフスタイルの話になりますが、「少欲知足(しょうよくちそく)」欲を少なくして足るを知る。そういう時代に来たんじゃないかと思います。モノは十分にあるのだから、知足という考え方が良いんじゃないでしょうか。

 最後に「新しいライフスタイルというのは、エネルギーはもちろん必要なんだけども無駄なことはよしていこうよということと、モノでなく心の豊かさに換えていこうじゃないかという、『少欲知足』かと思います。」と説き、独特の話術で面白みにあふれた講演を締めくくられました。

■第7回講座  平成25年12月6日(金) 遊学館

林家正蔵独演会
林家正蔵氏 林家たけ平氏

 林家正蔵師匠とお弟子の林家たけ平氏による生の落語を楽しみました。たけ平氏により落語の所作を学び、テンポのよい『秘伝書』、正蔵師匠の味わいを耳で感じられるような『味噌豆』と言葉遊びの『鼓ヶ滝』に大いに笑い、心も体も元気になる素晴らしいひとときとなりました。